広島シティーチャンネル

9月29日
リアル二刀流の極意

「夢は正夢」

日本ハム、栗山英樹監督はサインのそばにずっとそう綴ってきた。1990年に現役生活7年で引退。そのあと21年間も続けたプロ野球解説、大学教授、スポーツジャーナリストなど、グラウンドを外から見る仕事を続ける間もずっとそう書いた。

そして2012年、日本ハム監督就任1年目で、前年232回を投げ18勝したダルビッシュの抜けた穴を見事に埋めてリーグ優勝。そのあと6位、3位、2位…。

昨季はソフトバンクの牙城を崩せず独走を許した。相手は90勝、こちらは79勝。12ゲーム差をつけられた。

今季もそうだ。同じテツを踏みかけた。

6月24日、ソフトバンクとのゲーム差は11・5に開いた。だが、今回は違った。この時点で日本ハムの貯金はわずかに5だった。

一方のソフトバンクは貯金28。

そして迎えた8月5日の直接対決は3-2でソフトバンク勝利。この時、ソフトバンクは貯金をシーズン最多の33とした。

ところがあとの2試合は8-1、8-3のスコアで日本ハムが連勝した。この2勝が命運を分けた。8月の終わり、ソフトバンクの貯金は26まで目減りした。9月に入って懸命に巻き返そうとしたが気づいた時にはすでに後手に回っていた。

日本ハムは8月6日、7日の連勝で貯金23。まだ相手の背中がやっと見えている状況から手を伸ばせば届くところまで来た。ソフトバンクに0・5ゲーム差で9月に突入した。そして9月28日午後9時1分、西武プリンスドームのマウンドで大谷が両手を大きく広げて日本ハムの優勝が決まった。二刀流の真骨頂、最後は125球1安打完封勝ちだった。

夢は正夢。

メジャー挑戦を表明していた高校生の気持ちを直接、揺り動かしたのも栗山監督だった。

プロ野球の名だたる関係者は二刀流を亜流と見なし、あるいは毛嫌いするほどのアレルギー反応を見せた。

自分たちは投げること、打つことに一心不乱に接してきた。それを両方やるとは何事か、と…。

そこにはいわゆる「シナジー効果」はまったく加味されていない。両方やれる人が両方やることでいったいどんなメリットがあるのか?

栗山監督は最初からそれに気づいていた。そしてふたりで「漫画のようなことに挑戦して、それを現実に変えよう」と誓い合った。

投げること、打つこと、さらには守ることの配分をどうするのか?

大谷の過去3シーズンはずっとその試行錯誤の繰り返しだった。

そして4年目の今シーズンは「リアル二刀流」にGOサインを出した。5月29日のコボスタ宮城での楽天戦。「六番ピッチャー」で登場して7回を投げ3勝目をあげた。

7月3日のソフトバンク戦(ヤフオクドーム)では「一番ピッチャー」で先頭打者ホームランを叩き込んだ。もうこの頃になるとうるさいプロ野球OBたちも静かになっていた。「日本のプロ野球」の概念には縛られない新世代の異次元プレーを認めざるを得なくなったからだ。

大谷は優勝投手となったことで史上初の二けた勝利、100安打と二けた本塁打をマークした。「みなさんができない、と言われること、困難なことに挑戦することがモチベーションになります」まさに有限実行だった。

それをアシストした栗山監督は「一番ピッチャー」について「開幕から彼が楽しくないように見えた。とにかく野球を楽しくやらせるための“一番ピッチャー”。宿題が難しければ難しいほど集中すると思った」と“解説”した。

東京学芸大出身の“熱中先生”だけのことはある。大谷に大学で言えば4年生の卒業論文のテーマを与えたようなものだ。

教え子の大谷は2月のアリゾナキャンプでも教授からレポートの提出を求められていた。

「何でもいいから、俺に翔平から手紙を書いてみてよ」

迷うことなく書いたその内容は「今年、日本一になります」というものだった。優勝ではない「日本一」。

日本ハムは辛く厳しいシーズンを大谷をはじめとする多彩なキャラクターでまさに漫画のような戦いを続けそして最強のはずだったソフトバンクを倒すことに成功した。

日本シリーズの組み合わせが北海道対広島となるならば、大志を抱くつわものたちとの、異次元かつリアルな死闘が待っている。

ご意見はコチラ
ホーム
sports.c.w